登入「どうしたの?」
「2年の新島先輩に彼氏が出来たって」 「えぇ! そうなの!?」昨日の今日で急展開過ぎてつい声が出てしまった。
「くっそ~俺ワンチャンあると思ってたのに~」 「お前じゃ無理だよ。まぁでも相手があんなにイケメンの先輩なら諦めもつくよな~」意気消沈している男子たちの会話が聞こえる。
相手もそこそこに釣り合う先輩のようだ。 ドンマイお兄ちゃん。……ん?
「ねぇねぇちょっといい?」
「お、佐藤おはよー。どしたん?」 「その相手の人って誰なの?」 「あー、確かサトウトモヤっていうすげーイケメンの人だよ」やっぱり!
「つーか佐藤先輩って佐藤の兄貴じゃなかった?」
「あ、そういやそうだったよな! 中学時代ヲタボッチ聞いてたけど信じらんねーわ」目の前のクラスメイトの話に適当に相槌を打ちながらも、私の視線はめぐを探していた。
机にカバンは置いてある。 会話を続けながらさりげなくめぐにLINEを飛ばす。 既読はついたが返事はない。ホームルーム直前になり、めぐが教室に戻ってきた。
「めぐ……」 「ごめんねゆず。大丈夫だから」その後もめぐはいつも通りに明るく振る舞う。
誰も指摘しなかったけど、その目元は少し赤くなっていた。 放課後、いつも通り部活に向かう。 当然だけど部活には新島先輩がいる。 めぐ、大丈夫かな。私は声を掛けずにはいられなかった。
「めぐ。部活、平気?」
「も~何言ってるの? 今が頑張り時だよ!」 明るく振る舞っているけど、きっと強がってるんだ。 何か言葉をかけてあげないと。私がそう考えているとめぐは一瞬立ち止まった。
そして声のトーンを落とし正面を向きながら「私、お兄さんのことは諦める」
ハッキリと私にそう告げた。
予想してなかった訳じゃない。
それでも突然の言葉に少し動揺してしまった。 「新島先輩はすごいよね。勉強もすごい出来るし、次の県大会だってダブルスのプレイヤーで選出されて。それに比べて私は予選落ち」黙っている私にめぐは言葉を続ける。
「田村くんと色々あった時もそう。私がもっとちゃんとしなきゃいけなかったのに、そんな私を新島先輩は助けてくれた」
「…………」 「はは、私ってダメダメだよね。私じゃ到底先輩には敵わないよ」 『そんなことないよ!』なんて無責任な言葉を言うつもりはなかった。
それでもめぐの気持ちを思うと辛くなってくる。「もう~そんな顔しないでよ! ゆずがフラれた訳じゃないんだから~」
「だけど……」 「私は大丈夫だから気にしないで! それにゆずは新島先輩のパートナーなんだから。私はもう応援しかできないけど、練習はゆずと先輩に負けないくらい頑張るからね!」いつにも増してやる気なめぐに先導されテニスコートに向かう。
そして私は、めぐの代わりに新島先輩を計画に組み込むことを考えた。「新島先輩と付き合ったんだって?」
帰るなり私は興奮気味に問いかけた。 するとお兄ちゃんは妙に冷静な口調で「ああ、詳しい話はあとでするよ」
と言い、部屋に入っていった。
もぉ~なによもったいぶっちゃって! お父さんたちが寝静まるまでの間ずっと、私は話を聞きたくてうずうずしていた。コンコンッ
いつもの時間にお兄ちゃんの部屋をノックする。 ドアを開けた瞬間、私は部屋に入り込み椅子に座って聞く気満々の姿勢を取る。「今日何があったのか教えて! 新島先輩部活も休んでたし」
「そのことも含めて話すよ」今日あった出来事を話してくれた。
新島先輩が自己顕示欲が強かった事や、1年の時からお兄ちゃんを好きだった事を。「なにそれヤバイ! 新島先輩マジ乙女じゃん! でもまさかぼっちの時のお兄ちゃんに惚れてたとはねぇ」
「俺もビックリしたよ」 「そのお蔭で私は新島先輩に目を付けられなくてよかったよ。これで本気が出せる」学校一のイケメンとヒロインのカップル。
そのイケメンの妹の私が完璧美少女となれば誰もが注目せざるを得ない。 二人が付き合った事で私の計画も大詰めだ。 でも……「でも、水樹先輩の言う通り嫉妬からの嫌がらせには気を付けた方がいいかも」
「柚希もそう思うのか」 「女子程じゃないにしても、学校一の美少女と元ヲタクぼっちが付き合ったらそりゃ嫉妬されるよ」 「女子はもっとヒドイのか」 「女は怖いよ。昨日まで親友とか言ってたのに次の日にはいじめる側になってるとかザラだからね」それを考えると、めぐとお兄ちゃんが付き合っていたらイジメの対象になっていた可能性もある。
もしかしたらこれで良かったのかもしれない。 そう自分に言い聞かせる。「柚希は大丈夫なのか? それだけ目立つと嫉妬する奴とか出てくるんじゃないか?」
「そこは普段の立ち回りでなんとでもなるよ。誰にでも優しくしたり、それを鼻にかけないとか」 偉そうな事を言ったけど、自分の言葉に嫌気がさす。 めぐを応援すると言ったのに、新島先輩と付き合った事を嬉しく思う自分がいる。「まぁ私の事は置いておいて、お兄ちゃんも色々行動した方がいいよ」
「分け隔てなく優しくしたりとかか?」 「それもあるけど、女子とは仲良くしといた方がいいよ。女子が味方なら男子は女子に嫌われたくないからお兄ちゃんにちょっかい掛けづらくなると思うから」 「そうか、頑張ってみる」聞きたい事を聞いて満足した私は自分の部屋に戻った。
8月のインターハイに向けて練習はより一層ハードになった。 私は連日、通常練習に加えて新島先輩とのダブルスの練習もこなしていった。 少し遅めに帰宅し、クタクタになった私がベッドに横になっているとドアをノックされる音がした。「な~に~?」
「ちょっと相談があるんだけど」 「入って~」私はベッドに伏せたままお兄ちゃんを招き入れる。
「さっきデートに誘われたんだけど」
「へぇ、よかったじゃん。何か問題なの?」私は横になったまま耳を傾ける。
「OKした後に気づいたんだけど、俺の私服はマネキン買いした物と、この間柚希がコーデしてくれた組み合わせしか持ってない。他のコーデはないかなーという相談」
「今持ってる服だとこれ以上のコーデは無理」 「即答かよ!」 「もう付き合ってるんだし正直に言っちゃえば? 新島先輩は去年のお兄ちゃんの事知ってるんだからきっと大丈夫だよ」 「いや、でももう少しやりようが……」 「うるさいなぁ、大丈夫だって言ってるじゃん。私は今忙しいの! ほら出てって!」 「わ、わかったよ」そう言うとお兄ちゃんは部屋から出ていった。
友達と服とか買いに行けばいいのに。
というか付き合ってからの細かいところまでなんて面倒見切れないし。 あーイライラする。 今日はもう寝よう。 お兄ちゃんと新島先輩が付き合った影響なのか、あれだけ集まっていた1年男子の姿がめっきり減った。 それでもテニス部を見に来る男子は数人いた。 目当てはどうやらめぐのようだ。「染谷、俺と付き合ってくれ!」
「ごめんなさい……」 これで何人目だろう。 毎日部活終わりに違う男子がめぐにアタックしてはフラれていく。「ホンット男子ってこりないよね~。ね? めぐ」
「……」 「そうだ! こういう時は甘い物でも食べに行こうか」 「……」ここ数日、めぐに元気が無い。
それも仕方ないか。 田村の一件があったにも関わらず毎日告白されてたら疲れるよね。 そう思い再び励ます為に声を掛けようとすると「ゆず……話があるんだけど、この後時間いいかな?」
「うん、わかった」その後、喫茶店に移動し、めぐが重い口を開いた。
「前に友也さんの事は諦めるっていったでしょ?」
「……うん」 「でもね、私やっぱり諦めきれない。友也さんの事が好きなの!」 「めぐ……」めぐの声は震えていたが、力強かった。
私は親友として、めぐの事を分かっていなかった。 大人しくて受け身なのがめぐだと思っていたけど、根っこの部分はすごく強い。「だけど、どうしたらいいか分からないの」
と言いながらめぐの頬を涙が伝う。
その涙を見て私は決心した。正直言ってめぐとお兄ちゃんが結ばれる事はないだろう。
だけど、それとこれとは別だ。「わかった……私、自分の気持を伝えるよ」
「うん、頑張って!」 喫茶店を出て帰路に就く。 そしていつもの分かれ道に差し掛かった時「私……ゆずの友達で良かった」
「私もだよ。でも、友達じゃなくて親友でしょ?」 「ふふ、そうだね」と微笑んでめぐと私は帰路についた。
家に帰り、自室でめぐにLINEを送る。 これで準備は出来た。 後はお兄ちゃんを説得するだけだ。お兄ちゃんが私のことをずっと好きだった……? にわかには信じられない言葉を聞いて混乱する。「だから柚希のことを気持ち悪いだなんて思わないし、俺のことが好きだと言ってくれて嬉しい」 真っ直ぐ、視線を外さずに言葉を浴びせてくる。 私のことを好きだと言ってくれて凄く嬉しい! だけど、それをどこまで信じていいか疑っている自分もいる。 そんな自分が嫌だとわかりつつも、私の口は勝手に動いていた。「新島先輩は? お兄ちゃんの初恋は新島先輩だったって言ってたよね」 そう問いかけると、お兄ちゃんは困った様に頭を掻きながら答える。「確かに楓は俺の初恋の女の子だ。でもそれは柚希以外での事なんだ」「私以外で?」 首を傾げる私にお兄ちゃんは説明を始めた。「ああ。さっきも言った通り、小さい頃から柚希の事を一人の女の子として好きだった。だけどそれは歳を重ねていく内に許されない恋なんだと知った。だから柚希以外の子を好きになろうと思った。けど、その時の俺は周りから孤立していたし、どこかで無理かもなって思いもあった」 孤立してしまった原因を作ってしまったのは私の所為だし、あの一件で余計にお兄ちゃんの事が好きになったんだっけ。「そんな時、一人の女の子が俺に話しかけてくれた。周りからボッチだのヲタクだの言われてる俺に対して優しく接してくれた。その当時の俺は自ら人を避けていたけど、その女の子と話している間の空間は凄く居心地がよかったんだ。そういう事も重なって俺は始めて柚希以外の女の子を好きになった」 そう語ってくれたお兄ちゃんに対して、私は更に意地悪な質問をする。「水瀬先輩の好意や、友華さんと沙月ちゃんに対してはどうなの?」「こんな俺に好意を寄せてくれるのは凄く嬉しかったし、俺自身みんなに惹かれていってた」 そして深く息を吐き、申し訳無さそうな顔をする。「だから皆とは付き合えないと伝える決意をするのに時間が掛かっちゃって申し訳ないと思ってる」 そう
私は今何て言った? 部屋の前で盗み聞きをして、沙月ちゃんとお兄ちゃんがそういう会話が聞こえてきて……無意識に部屋に飛び込んだ。 その後に沙月ちゃんと口論になって……それから――――『お兄ちゃんの事が好きなんだから!!』 そうだ……お兄ちゃんを盗られたくない一心で――――「柚希……今のって」 お兄ちゃんは状況が理解出来ないといった感じで見つめている。 それもそうだ。突然妹からあんな事言われたら混乱するに決まってる。「やったね柚希ちゃん。やっと言えたじゃん!」 沙月ちゃんが嗜虐的な笑みを浮かべながら私の肩をポンッと叩く。 ハメられた! きっと私が部屋の外で話を聞いてると踏んで沙月ちゃんは最初からこうなる様にお兄ちゃんに色仕掛けしてたんだ! 「っ!」「柚希ちゃん!」「ちょ、待てよ!」 どうしよう! どうしよう! どうしよう! どうしよう! 言うつもりは無かったのに! 妹として傍にいようって決めてたのに! 幾ら沙月ちゃんに煽られたからってあんな事言っちゃうなんて!「はぁ、はぁ……ここは?」 お兄ちゃんから逃げる事しか考えて無かったから、いつの間にか公園に辿り着いちゃった。 でも、ここまで来れば流石に見つかんないよね……。「はぁ……これからどうしよう」 ベンチに腰を下ろすと、つい言葉が漏れてしまった。「ビックリしてたなぁ……」 そりゃそうだよね。実の妹が異性として兄を好きだなんて思ってもみないだろうし。 はぁ……流石に嫌われちゃったよね……。「柚希! ハァハァ&h
『自分の気持に素直になってみたら?』 翌日になっても新島先輩の言葉が頭から離れない。 素直になっても報われないなら……もしかしたら気持ち悪い妹だと思われたらと考えてしまう。「ダメだなぁ……ネガティブな事しか浮かんでこない」 そう独りごちて、思考を振り払う様に頭を振る。それから大きく深呼吸をして気持ちを落ち着かせてお兄ちゃんの部屋のドアをノックして中に入った。「どう? お兄ちゃん。少しは良くなった?」「ああ、熱も下がって倦怠感も無くなったよ」 そう言って腕をぐるぐる回す。 「良かった。でもあまり調子に乗らないように! 今日一日は安静にしててね」「大丈夫だって」「ダメでーす。風邪はひき始めと治りかけが一番重要なんだから」「母さんみたいな事言うな」「はいはい、なんとでも言いなさい。とにかく安静にしてるんだよ」「はぁ、分かったよ」 諦めたようにベッドに横になるお兄ちゃんを見届けて部屋を出た。 少し体調が良くなったからって直ぐ調子に乗るんだから。 でも、良くなってよかった。 リビングでテレビを見ながら勉強しているとインターホンが鳴った。 まさかまた新島先輩が来たのかな? と頭の隅で考えつつモニターを確認すると、今度は沙月ちゃんが立っていた。 玄関を開けると沙月ちゃんは元気良く挨拶してくる。「柚希ちゃんやっほ~」「やっほー。もしかしてお兄ちゃんのお見舞い?」「うん。急だったけど大丈夫かな?」「大丈夫だよ。体調も良くなってきてるし」「よかった~」 家に招き入れお兄ちゃんの部屋まで案内する間、疑問に思った事を聞いてみる。「そういえば、どうしてお兄ちゃんが体調崩したって知ったの? 心配掛けない様に黙ってたのに」「昨日南さんから聞いたんだ~。南さんは楓さんから聞いたって言ってた」「そうだ
水瀬先輩の想いを聞いてから数週間が経った。 当初懸念していた接し方や態度も以前と変わらず、普段どおり接してきてくれるとお兄ちゃんから聞いた。 それに一番驚いたのは水瀬先輩が合コンにハマった事だ。 沙月ちゃんに無理矢理連れて行かれた合コンで、チヤホヤされたのが嬉しかったらしい。 合コンの度に「やっぱりトモより良い男いないや」とボヤいていたので、今でもお兄ちゃんの事は好きなんだと思う。 だけど水瀬先輩はお兄ちゃんにはそんな素振りを一切見せていないらしい。 多分それはお兄ちゃんが好きで、幸せを願っているからこそなんだと思う。 沙月ちゃんのお陰で水瀬先輩は気持ちの整理が出来たのは嬉しい反面、合コンにハマってしまっている事に関してはお兄ちゃんも心配していた。「沙月には感謝だけど、他にやりようはなかったのかなぁ」 とお兄ちゃんがボヤいていた。 まぁ自分の事を好きで居てくれた女の子がいきなり合コンにハマりだしたのだから複雑な気持ちなのだろう。 お兄ちゃんだけでなくグループの人達全員が水瀬先輩の変わりように戸惑っていたみたいだ。 それも最初の内だけで、今では水瀬先輩=合コンというキャラが定着しつつあるらしい。 実際私も何度か誘われたが丁重に断った。 そんな出来事がありながら中間試験も終了し試験休みに入ったのだが、休みに入った途端、お兄ちゃんが熱を出して倒れた。 そして今は看病の真っ最中だ。「もう、お兄ちゃんは無理し過ぎだよ」「ゴホッゴホッ! すまん……」 どうしてこうなったかというと、文化祭のライブが切っ掛けだった。 振替休日が終わり学校へ行くと、1年から3年まで分け隔てなく女子から猛アプローチを受けていた。 授業が終わり帰宅する時には、校門に他校の女子が出待ちまでしてたし。 アプローチされても軽く流せばいいのにお兄ちゃんは一人ひとり丁寧に対応し、睡眠時間をへらしてまでファン達の相手をしていた。 気持ちを無下にできないっていうお兄ちゃんらしい優しさではあったけ
昨日は凄い一日だったなぁ。 お兄ちゃんが水瀬先輩を振るシーンを見ちゃったり、その後参加した打ち上げの後での新島先輩とお兄ちゃんのやり取りを聞いたり。 新島先輩がなんで私にまで話を聞かせたかは未だに分からないけど、問題は水瀬先輩なんだよなぁ。 もしこれで水瀬先輩がお兄ちゃんから離れていってしまったら絶対お兄ちゃんのグループの雰囲気は悪くなる。そうなると中居先輩が黙ってないだろうし……。「それに……お兄ちゃんの好きな子ってやっぱり――」 試験勉強をしていたがどうしてもその事が頭に浮かんでしまう。 残る候補は沙月ちゃんだけだからほぼ確定なんだろうけど……沙月ちゃんはお兄ちゃんのことどう思ってるんだろう。 私のことを応援すると言ってくれてたけど、私の事を理由に断って欲しくない。 例えお兄ちゃんが沙月ちゃんと付き合ったとしても、私はお兄ちゃんの妹だし、これまで通り傍に居られるだけでいい。 そんな事を考えているとスマホの通知音が鳴った。 スマホを手に取り確認する。「水瀬先輩からだ……」 アプリを開いてメッセージを確認する。〈大切な話があるから今から話せないかな?〉 大切な話ってなんだろう? それよりも気持ちの整理はついたのかな。 とりあえず返信しないと。 〈大丈夫ですよ〉 〈ありがと。沙月ちゃんにも話すから今グループ作るね〉 わざわざ3人だけのグループを作って話すことってなんだろう? そう考えている内にグループへの招待が来たので参加する。 沙月ちゃんも参加して全員揃ったところで通話が掛かってきた。「もしもし、こんにちは」「南さんこんにちは~」「2人ともこんちはー。急にごめんね~」「いえいえ、大丈夫ですよ」「はい、丁度暇してたので問題ないです」 話し方や声のトーンはいつもと変わらない。
新島先輩に続いて水瀬先輩までフラれた。 そうなるとお兄ちゃんの好きな女性は必然的に沙月ちゃんって事になる。 沙月ちゃんには今まで色々相談に乗って貰ったり、私の唯一の理解者でもあった。 だからこそ私が沙月ちゃんを祝福してあげないと。「待たせて悪いな」「ひゃっ!」 考え事をしていたらいつの間にかお兄ちゃんが校門にやってきていた。 ビックリして変な声出ちゃったけど不審に思われないよね?「なんだよその反応は。ちょっと傷ついたぞ?」「ご、ごめん。ちょっと考え事してたからお兄ちゃんに気づかなくて」「まぁ遅くなった俺が文句言えないか。んじゃ行くか」「……う、うん」 水瀬先輩はどうしたの? という言葉を飲み込んだ。 私があの現場を見ていたと知ったら色々気まずいだろうし、何より水瀬先輩の事を思うと私が見てたという事実は無かった事にした方がいい。「文化祭は楽しかったか?」「楽しかったよ。特にお兄ちゃんのライブは興奮したなぁ~」「その話はやめてくれ。皆褒め過ぎなんだよなぁ」「とか言ってお客さんを凄い煽ってたりしてたじゃん」「あ、あれはああやれって言われたから仕方なくだよ」「それにちゃっかりクラスの宣伝までしちゃって~」「うぅ、あれは……もうなんとでも言え!」「あはは、ごめんごめん」 お兄ちゃんを揶揄っていると打ち上げ会場に着いた。 入店すると沙月ちゃんが出迎えてくれた。「柚希ちゃんいらっしゃ~い」「おじゃましま~す」 沙月ちゃんと軽いハイタッチをしながら挨拶を交わす。「あ、友也さん遅いじゃないですか~」「掃除当番だったから皆には先に行ってて貰ったんだ」「そうだったんですね。じゃあ早く着替えてきてください、忙しいんですから」「ああ、わか……って今日は客で来てんだよ」「え? 手伝ってくれ